君の木の下

夫婦と子どもふたりの日常備忘録

みんないなくなってしまった

なんだかなにも手に出来ていない。するするとこぼれてつかめない。

それが彼の愛情を、なのか、自分から送っているはずの愛情を、なのかわからないが。

 

有給をとっていた大木君は、わたしの帰る時間に合わせて晩御飯を作って待っていてくれた。ほっけの干物と、かぶと鶏のスープと、たこの酢の物。完璧だ。

彼はわたしを愛してくれていると思う。わたしも彼を愛している。日に何度もキスをする。互いを思って早く帰る。

なのにその感情がうまくつながらない感覚があるのはどうしてなのだろう。

彼の横で眠りながら、ふと、彼もまた、いなくなってしまうのだろうかと考えた。

 

わたしは人間関係が数年しか続いたことがない。たいていは3年未満で終わる。

 

そもそもが転勤族だったから、小さいころの友人とは自然と疎遠になった。中学2年の終わりに引っ越したが、引越し前の友人とは高一くらいを最後にやり取りをしなくなった。高校は家から遠く、同じ中学から誰も進学していなかったというのもあり、二つ目の中学の友人も、2,3年で連絡が途絶えた。高校の友人も、みな進学先が全国各地、ばらばらだったこともあり、やはり2,3年で連絡を取らなくなった。大学の友人はわたしが就活に失敗して留年してから会いづらくて、会うのをやめてしまった。留年中のバイト先で出来た友人は男性で、就職後もしばらくやり取りしていたが、そのうち向こうの奥さんに不倫を疑われてトラブルになりかけ、それきり会えなくなった。一つ目の職場の同僚の何人かとは細々と連絡をとっている。でもいつまで続くかわからない。今の職場だって、いつ嫌になって辞めてしまうかわからない。そうなったらここの同僚ともやはり何年も続く関係は保てないだろう。

もちろん恋愛もおなじで、何年も続く強固な関係など結べたことがなかった。

 

ひとりだけ、この子とは70歳になっても一緒にお茶を飲んだりするのだろうと思っていた友人がいる。わたしが留年して誰のメールにも返信しなくなっても、一人だけ心配してくれた彼女。でもわたしは差しのべられた手を拒んだ。だから彼女ももういない。

 

みんないなくなってしまった。

これまでの人生で一度たりとも、長く続く関係を築けたことがなかった。

どうしてわたしは、大木君とならいつまでも一緒にいられると思ったのだろう。

過去を振り返れば、彼ともいずれ疎遠になるとしか考えられないというのに。

彼と知り合ってから、まだ2年と少ししかたっていない。

 

もしかしたら、わたしたちの関係はもう折り返しを過ぎているのだろうか。

 

それとも、結婚という法律行為がつなぎとめてくれるのだろうか。

 

早く死ぬときがこないだろうか。

ずっと一緒にいられてよかったというハッピーエンドを目にするまで、この不安は続く。