君の木の下

夫婦と子どもふたりの日常備忘録

外付けの脳みそとしてのメモ帳

安いメモパッドを買ってダイニングに置き、毎日TODOリストを作って生活している。

「加湿器の掃除」とか「生協の注文」みたいな、たまにしかしない家事はもちろん、「皿洗い」とか「洗濯」といった毎日のルーティンまで書く。

そうじゃないと忘れてしまうからだ。

キッチンに来て「あれ、なにしようとしたんだっけ?」と首を傾げてチョコをつまみ、何かをしようとしていたことすら忘れてリビングに戻り、「いや違う違うお米炊くんだった」とまたキッチンに戻る、みたいなことが日常茶飯事。「何かやることがあった気がするけど思い出せないな…」などと考えながらぼんやりソファに座りこんで時間がすぎる、なんてことさえある。ほっとくと何もできずに一日が終わる。

あまりに時間の、ひいては人生の無駄遣いなので、メモを作ってそれどおりに動くことでしのいでいる。

 

今はまだ育休中だけれど、仕事でも同じだ。どんな細かいこと(メールチェックをする、とか、○○の書類を片付ける、とか)もメモしておいて、新しいタスクが湧いてくるたびに段取りを組み直して動いていた。

繁忙期は1日に何個も新たなタスクが降ってきて、これ終わったら次なんだっけ?などと、1日に何度もメモを確認しに戻らないとならない。そのたびに「こっちが先かな、そのあとでこれかな、いや、まずこの仕事かな」とか考えて頭の中は忙しいのに、その割に全然仕事が進まない。

 

メモを取る暇すらない仕事の場合は最悪だ。

高校一年生のときに何を思ったかレストランのキッチンでバイトを始めたのだが、これが絶望的に向いていなかった。

オーダーが入ると店長や副店長が読み上げてくれるのだけれど、それを耳で聞いて覚え、頭の中で段取りを組み立て、料理に取りかからなければならない。

注文が入った、でもまだ2件前の料理を今作っているところ、その前の料理はオーブンの中、あと何分だっけ?1件前の料理は手もつけていない、注文内容も忘れちゃった、また確認しにいかないと、だけど新規の注文のうち、前菜はなるべく早く出さなきゃいけない。あれ、4件前の料理ってもう出したんだっけ?あ!焦げてる!

……最悪だった。

どんなにがんばってもできないことがある、向いていないことがあると思い知った数ヶ月間だった。

 

家でも細かいメモを作らないとき、同じ状態に陥る。

その最たるものが、やはり料理。

途中で中断されると格段に効率が落ちてしまうため、最近まで夜、子どもたちが寝たあとに翌日の夕飯の準備をしていた。

のだが、これが却ってよくなかった。

通常の夕飯の準備なら、さすがに慣れもあって40分から長くても1時間程度でこなせるようにはなっているのだけれど、前日にやるとなるとまた条件が変わってくる。

「これは完成させると予熱で水分が出てしまうから具材だけ切って明日仕上げる」「こっちは卵だけ食べる直前に入れる」などと、考えることが増えてしまうのだ。更には、最近は離乳食作りもある。ひと品かふた品を一度に数回分作って、冷凍する。大抵は少量の具材を切って煮るだけだからそんなに手間ではない、はず。

工程だけ見れば、かかる時間はたいして増えていない、それどころか仕上げにかかる時間がない分早く終わるはずなのに、なぜかいつも90分とかそれくらいかかる。

おかしい。

晩ごはん1回分50分 − 仕上げの工程10分  + 離乳食作り20分 = 60分

のはずでは…?

 

もしかすると自分はすごく馬鹿なのかもしれない。

そんなふうに感じてよく恐怖に陥る。

馬鹿というのはドジっ子とかそんな軽い意味での馬鹿、ではなくて、知能が低いのではないか、と不安になるのだ。

 

思えばわたしは昔から、周囲の女の子の会話についていけないことがよくあった。いつもあとになって、あのときこう返せばよかったんだ、とか、あれは言葉そのままの意味じゃなくてオブラートに包んだお説教だったのかも、などと気づく。

自分は引っ込み思案だから人と接するのが苦手だと思っていたけれど、もしかしたら、単に知能が低いからリアルタイムでの会話に混ざれなくて苦痛に感じていたのかもしれない。と、最近思う。

知能が高ければ、もしかするとわたしもおしゃべり好きになっていたかもしれない。

 

自分が低いところにいると、周囲を観察する余裕もないし、等身大の自分すら見えない。高いところにいる人は、見晴らしのよいところから見渡して、さぞかしよく見えるのだろう、このわたしの愚かさも。そうだ、きっとわたしは愚かなのだろう。

…などと、考えたりする。

 

本当のところどうなんだろうな。やっぱりみんなからはわたしが馬鹿なのが丸わかりで、わたしだけがみんなと同じつもりでいるのかな。

それとも、みんなも多かれ少なかれ同じような感じで、周囲の人がどう考えているかとか、等身大の自分のサイズとか、測りかねながら不安に思いながら生きているのかな。

 

よくわからない。

ごくたまに、「この人はすごく頭の回転が速いな」「この人は周りがすごいよく見えているんだろうな」と感じる人はいるが、そうでない普通の人々が、わたしと大差ないのか、それとも普通の人であってもわたしに比べればずっとよく見えているのか、そこがわからない。

わたしの周りの人たちは優しくて育ちもいいので、他人に「きみ、馬鹿だね」などと言ったりしないし。

 

とはいえ、もうすぐ職場復帰。

馬鹿だろうとそうでなかろうと仕事があって、こなしていかなければいけない。悩んでも頭はよくならないので悩んでもしょうがない。これまでどおりアホみたいにメモを取りまくって、自分なりに働かなくてはならない。

せめて「仕事のこの部分なら人よりよく見える」というのができればいいのだが。

 

余談だが、育休からの復帰に向けて、先日家事代行さんにお試しで来てもらった。

60代のその人は涼しい顔で淡々と調理をし、事前にろくな打ち合わせもなかったというのに3時間で20品も作ってくれた。

しかも、揚げ物や炊き込みご飯、ポタージュスープまである。間近で見ていたのに何が起こったのか理解できない。彼女は魔法使いなのではないかとわたしは思った。

100年かかっても真似できそうにない。

 

今週のお題「メモ」