君の木の下

夫婦と子どもふたりの日常備忘録

家事育児の値段

先日、ふみちゃんが熱を出して保育園に預けられず、大木くんが一日ひとりで見ることになった。

熱はわりとすぐおさまりそんなに体調や機嫌が悪い感じではなかったそうだが、夕方まで一対一というのは大変だったろうと思い「今日はおつかれ」と夜、声をかけた。

すると大木くんは

「いや。そんなに大変ではなかったよ。むしろ普段の土日よりいい子にしてたと思う。まあたった一日だしね。これが毎日となったらしんどいだろうけど。キノちゃんは育休中は毎日やっていたわけだけど」

と言った。

「そうだねー。毎日はやっぱりしんどいよね。専業主婦の人はすごいと思う」

育休中、職場復帰という「おわり」があるから頑張れていた毎日を思い出しながらわたしも答える。加えて1,2か月前までは夜泣き対応もほぼ毎日わたしだったものな。

結構頑張ったよな、わたし。とあらためて思う。

 

最近のふみちゃんは夜泣きはするものの(大抵一晩に2,3回。まったく起きない日もあれば、5回くらい起きるうえに再び寝付くのに1時間近くかかる日もある。)、母乳がなくても大丈夫になったので夜泣き対応は夫婦で交代しながらやっている。おかげで本当に本当に楽になった。

何日か連続で大木くんに夜泣き対応をお願いしたときは、朝出勤するときに気絶しそうなだるさが全くなくて、いかにこれまでの1年間、疲れたままの状態で生きていたのかという事実を思い知らされた。

逆に大木くんは日に日に辛そうになり、何をやっていてもなんだかちょっと不機嫌そうな、あるいは無感動な態度をとるようになってしまい、ああ、睡眠を妨害され続けるのってこんなにもQOLを下げ人格にまで影響するのだなと客観的にも知ることができた。

 

乳幼児の育児は大変だ。

今は育児と仕事の両立という課題はあるが、平日の日中の育児を保育園にお任せ出来てちょっと楽なくらいだ。

 

「ねえねえ、もし住み込みで乳児のお世話係と家事を少しやるだけの仕事があったら、年俸いくらくらいならやる?」

ちょっと思いついてわたしは聞いてみた。ええー、どうだろうと大木くんは笑いながら首をかしげる

「たとえば定年後、暇だけどまだちょっと体力はあるときに、生まれたての赤ちゃんの育児を依頼されました。プロのベビーシッター並みのクオリティは求められません。一般家庭のシュフ程度の育児。1年間限定です。土日休みなし」

「土日休みなしか」

「いや、休みの日は赤ちゃんの親が数時間程度は代わってくれる。あと夜泣き対応あり。だから実質24時間対応」

「それってお金もらえても使う暇もないよね」

「たしかに。赤ちゃんを連れてなら多少の外出は可。赤ちゃんのお昼寝中は、多少家事をやればあとは自由時間。ただしひとりで出かけることは出来ません。まあ夜泣き対応で寝不足だから赤ちゃんのお昼寝中は遊ぶより寝たいと思うだろうけど」

言っていてなかなかにブラックだなと思う。だいたい休日なしってなんだよ。労働基準法ガン無視じゃないか。500万程度じゃ無理だな。いくら求められる育児の質が低くても700~800万は最低でも欲しいな。

「700万ならあり?」

と聞いたら大木くんも

「それくらいならやるかも」と言った。「いや、住み込みで生活費がかからないってことなら500万でもギリありかな」とも。

「えーまじか」

 

それは低すぎないか。

わたしは昔バイトで行った葬儀屋さんで社員の方が宿直をやっていたのを思い出した。テレビ見放題お菓子も食べ放題だしちゃんと布団があって寝れるのだけれども、電話が鳴れば駆けつけなければならない。

その宿直には、当然残業代が支払われていた。

ただの待機時間でも、社員を拘束するなら給料を払わねばならないのだ……。

となれば、「業務」として子育てをするなら夜泣き対応を行う夜間にも給料は発生するわけで。

24時間かける365日は8760時間。時給千円なら876万円。土日は一日当たり5時間の休みをもらえるとしても824万円。もしそこから家賃や食費として月々10万円を天引きされたとしても704万円。わたしは最低でもこのくらいはほしいな…。深夜手当とか考えると本当はもっともらってもいいはずだよな……。

昔、専業主婦の労働を金額で評価すると年収1千万円分なんて話もあった。1千万なんてそんなあほなとその頃は考えていたけれど、未就園児かつ多子世帯ならまじでそのくらいが給料としてむしろ最低ラインかもしれん。としみじみ考えた。

 

その後もなんだか「老後にお金をもらいながら赤ちゃんのお世話をする」という妄想が頭から離れなかった(なぜ老後かというと今の仕事を辞めてまでというのは考えられないため。24時間対応の乳幼児の世話はハードすぎて何十年もできるものではないし、老後のまだ若いうちに1年限定、くらいがやっとだろう、という設定)。

ふみちゃんはもうかなり大きくなってしまって、街でたまに生後1,2か月の小さい子を見かけると「またこんなちっちゃい子のお世話をしたい!」という欲求が湧いてくるので、お金がもらえるんならまじでいいかもしれないなどと考えてしまった。

老後、もし大木くんもいなくなってて独り身だったら、やりたいかもしれない。年俸800万で1年間限定の赤ちゃんのお世話係。


いやでも、一年間付きっきりで育ててしまったらもう離れられなくなる。それだけ親代わりになって子育てをしたら血のつながった親なんかよりよっぽど親子の絆が生まれるはずだ。それなのに赤の他人にもどる前提で子育てなんて、辛すぎてやっぱりできないな。

それに、ただのお世話係といっても命を預かるわけだ。自分の子なら頑張れるけど、他人の子に対して時給千円ぽっちでそんな重い責任は負えないかも。とくにうつ伏せから仰向けに戻る寝返りができないうちは、いつ寝ながら窒息死するかとヒヤヒヤしっぱなしだった。うつ伏せ寝しているのを見つけては神経質なほど毎回元に戻したし、頻繁に夜泣きしてくれるとむしろ生存確認できるのでありがたかったほどだ。あれを他人の子ども相手に24時間やる?無理かも!

 

結果、今のふみちゃんとの時間を大事にするしかない、というありきたりな結論に至るのであった。

ふみちゃんとすごす毎日、大変なことも多いけどプライスレス!