昨日は定時で帰れてしまったので食後ゆっくりする時間があって、のんびりとどうでもいい本を読んでいると、「男の浮気は許すな」「浮気したら殺すくらいのことを言っておけ」などとあって、ふと思い出した。
そういえば昨日、大木君の部屋に茶色い髪の毛が落ちていたな。
わたしは胸の下まである黒髪ロング(ゆるパーマ)だが、それはたぶん肩にかかるくらいの長さしかない、パーマでもない、わたしの髪より細い、そして茶色いもので、自分のものではなかった。それを見てわたしは、何年も前に落ちたものが座椅子などの家具に挟まったまま今まであったのだろうと思ってすぐ捨ててしまったのだけど、その本の記述に感化されて、「せっかくだから言っておこう」と言う気になり、
「ねえ、大木君の前の彼女って肩くらいまでの長さの茶髪だった?」
と聞いた。
「いや、短い黒髪だったけど…なんで?」
わたしはことの経緯を説明した。
「だから、誰か昔そのくらいの髪の子が部屋に来たのかと思って」
そういうわけでもないらしい。わたしの髪の、比較的茶色くて短いものがたまたま落ちていたんじゃないのか、と大木君。
わたしとしては、特に大木君の浮気を疑っているわけではなかったのだが、大木君は疑われていると思って大変気を悪くしたらしく、わたしから離れてひとり皿洗いをはじめ、それが終わるとまだ22時半だというのに「寝る」と寝室へ入ってしまった。
なんで機嫌悪くなるんだ。
わたしはそのことの方がむっとして、寝室までついて行きなぜ怒っているのかと問い詰めた。
曰く、
「誰だって疑われたら嫌な気になるでしょ。泥棒してないのに泥棒したと言われて怒らない奴いないでしょ」
とのこと。確かにそうね。
でも今回はわたし疑っているわけじゃない。それに
「でも、以前泥棒をした人にまた怪しい部分があったら、そりゃ、今回もそうかしらって思ってしまうものじゃないの?」
押し黙る大木君。
そう、大木君には前科がある。最初はわたしが浮気相手だった。
そのことを思い出すと、どんなに大木君を信頼したくても、わたしよりもっといい人が現れたらこの人はまた乗り換えるのかしらって、不安が完全になくなることはないのだ。
「わたしは大木君が死ぬ瞬間まで完全には安心できないんです。でもそんなことはしないって一生かけて証明するって、結婚前に大木君は言った」
イライラとわたしが言うと、
「そうです」
とイライラしながら大木君。
「だからこれでいいんですよ。疑うようなことがあったら毎回すぐ行ってくれればいい。毎回俺が機嫌悪くなるだけだから。それでいいんです」
とのこと。
「そうね」この話題に飽きてきてため息交じりに答える。「早くおじいさんとおばあさんになりたいね」
早くハッピーエンドを見届けたい。
その日の晩ごはん。トマトリゾット(イタリアで教わった)とチキンソテー、レタスとベーコンのスープ。