一時は胸の下まであった長い髪を、7、8年ぶりにバッサリ切った。
「ハンサムショート」とか呼んだりするらしいが、少年のような丸っこいフォルムで襟足のすっきりしたショートヘアだ。
今の職場の人たちは、当然髪の長いわたししか見たことがないわけで、この髪型で出勤するとほぼ全員に何かしらつっこまれた。中には、わたしの顔を見るなり文字通り「ハッ」と息をのんでフリーズしてくださる方なんかもいて面白い。
わたしは職場での雑談が苦手なので、こういう、自ら話しかけなくても話題を提供できるイベントがあるのはちょっと安心する。まあ、話題提供効果はせいぜい1,2日程度だけれども。
「勇気あるね」
などとも言われるけれども、生きてきた中でショートヘア期間の方が長かった身からすると、どちらかというと本来の自分に戻った感覚だ。
髪が長く、パーマなんかかけていた時の自分の方が、なにか「装っていた」。と、切った直後の美容院の中で思った。
思えば、「人生で一度くらいロングヘアになってみたい」と興味本位で伸ばし始めた髪だった。自分は背が高いので、マキシ丈ワンピにベリーロングの髪なんか似合うんじゃないだろうか、などと考えていた気がする。そのころリゾートっぽいワンピースが流行っていたりしたから。
長い髪は一通り楽しめたと思う。
前髪を3対7で分けて斜めに流し、毛先にパーマをかけたAKBっぽい髪型だったころは一瞬だけどモテ期っぽいものを味わえた。男性はなんだかんだ長い髪が好きらしい。友人の結婚式などでは編みこみのアップヘアや、ラプンツェルのように横に編みおろすスタイルも楽しんだ。婚姻届けを出した日は、意味もなく美容院に行き、ヘアセットしてもらってから出かけたりした。ベネチア、ブラーノ島で撮った写真が残っている。このときのわたしは長い髪がよく似合っていると思う。フレンチスリーブのワンピースに麦わら帽子、長い髪がかすかに揺れている。カラフルな町の中で、女優気取りで写真をたくさん撮ってもらった。
その他にも、前髪を伸ばしてみたり切ってみたり。茶髪にしてみたり。
だいたいやって、だいたい気が済んだ。
そして30を過ぎ、齢のせいかここ最近、髪の重みで頭皮がすごく痛むことが多くなった。毛量も多いため、洗うのも乾かすのも大変だし、重いし、これ切ったらマラソンももうちょっと速くなれる気がする、と思ったらもう切るしかない! それもバッサリと!
と決めてしまえばもう切る日が楽しみになってきて、迎えた予約日、何の未練もなくバッサリいった。正直ロングヘアにも飽きつつあった。
美容院では、二つ結びにされ、結んだ少し上の方をバリカンでジョジョジョジョジョ、と切り落とされた。それをわたしは、にやにやしながら見守っていた。
結果、大変楽になった。
シャンプーは1回押しただけの量で充分になったし(前は3、4回分必要だった)、髪を乾かす時間も半減した。適当にワックスをつけておけばいいのでスタイリングも大変楽。
ジョギングしているときも、以前は一歩ごとに髪が肩にかかりバサバサうるさかったのがなくなった。
毎日がさっぱりして、髪の長かったころの自分のことは一瞬で忘れてしまった。
モテという点では、男性受けはあまりよくないのかもしれない。
でももうわたしは最上の夫を手に入れたしな。今さら男受けはいらないのである。
これからはショートカットででかいピアスつけて街を歩くのである。
髪の分だけ人生が軽くなった気がする。