君の木の下

夫婦と子どもふたりの日常備忘録

幸福な家庭

先週の日曜日、用事を済ませてうちに帰ると、かねてより購入を検討していたベランダ用スリッパを買ったらしく、大木くんにベランダに呼ばれた。
どれどれと見てみると、これも買った、と苗とプランター、スコップと小さなじょうろが。

苗には、白い花。苺だ。

「なんか育てたいねって前から(二人で)言ってたから、ホームセンターで裾あげテープ買うついでに買ってきた」

という。
二人で言い合ってたのだから二人で選びたかったなあという言葉を飲み込み、

「やったー、ありがとう」

と笑う。
まあ、わたしはいつまでも決められない質だから「いつかそのうちホームセンターに行って」なんて言ってたら結局ずっと買わずじまいになってたかもしれないし、決断してもらってよかったかもな。とも思うし。しかも苺、いいじゃない。


「苺の花言葉は、幸福な家庭なんだって」
と大木くん。
あら珍しく照れくさいこと言うなと思ったら本人も照れて笑っている。

「がんばる」
とわたし。

すると大木くんは、
「またあらためて、って言ってたから、どうしようか考えたけど、花束とかだと一緒に住んでるわけだし枯れてくのを見るのはさびしいかなと思って、成長していくのを二人で見ていけるものの方がいいかなあと思って苗にした」
という。

おお、ああ。

やっぱりこの人は決定的な言葉を使ってくれないなあ。
うすうす知ってたけど。
でも「結婚してください」ってストレートに言ってほしいよ。


年末に居酒屋で、駆け込み的におざなりなプロポーズをしたときは、イベント的なプロポーズは後日あらためて、と言っていたので一体どんな素敵演出があるのかと思ってわくわくしていたけど、まあ映画みたいにはいかんのだな。
でもロマンの欠片も持ち合わせてないこの人が、精一杯二人の未来を考えてくれたのだから、全力で答えなければ。

「これがプロポーズなのね」
わたしはプランターや苺を手で指した。
「うん」
大木くんを見る。嬉しそうに笑っている。わたしも笑い返す。
「ありがとう」

もうだいぶ日も暮れかけていたが、今植え替えようよとわたしが提案し、買ったばかりのスコップで二人して土いじりをした。
わたしは「すごい」を連発して最大限にはしゃいでいた。
じょうろに水をくみ、代わる代わる水やりをした。苺は、すでに白や緑色の実をいくつかつけている。
「楽しみだね」


そのあと聞いたけど、大木くんはいろんな植物の花言葉を調べたそうだ。はじめは観葉植物にしようとしていたが、見た目がきれいでかつ良い花言葉を持つものを見つけられないでいた時に、苺の花言葉を知ってこれに決めたそうだ。
花束がよかったなともさっきは思ってしまったが、確かに二人で世話して、成長する様子を見守れるのは未来があっていいと思った。


ごはんを作りながら、さっきのわたしはきちんと返事をできていなかったかもしれないと考え、食後にお酒を乾杯する時に
「返事をさせて」
と言い、彼に向き直った。大木くんもこちらを向いて正座をした。

大木くんの手を握り、何を言おうか考える。なかなか言葉にならない。まとまらない。
1分くれ、といって長々と話すことにした。
まず、返事は「こちらこそよろしくお願いします」ということ。次にわたしが大木くんと結婚したい理由。ただ好きという感情だけでなく、自分たちを客観的に見ても、大木くんがいれば何があっても大丈夫だろうと思えるのだということ。時に落ち込んで幸せになるためのやる気がなくなることもあると思うけどごめんね。わたしも大木くんにできることがあればなんでもするよ。幸福な家庭を築けるよう、がんばるよ。

「幸福な家庭」なんて、昔から別にほしいともなんとも思わなかったものだ。今も実は、結構な違和感を感じている。
でも大木くんと歩む未来をイメージするとき、二人好きなように仕事したり、子育てで協力したり、そういう日常ばかりを想像している。たぶん、幸福な家庭というカテゴリーに入れてもいいようなやつだ。
ならまあ、その未来を大事にしようかなと思う。

あと、大木くんがいれば無敵だなと思うのは、事実。彼はわたしのセーフティベースなのだ。彼がいれば、わたしはなんだってできるような気がするのだ。

翌日はずっと、ニヤニヤしていたと思う。わたし昨日プロポーズされたの!苺をもらったの!苺の花言葉って、幸福な家庭なんだって!って、みんなに言って回りたかったくらいだ。