君の木の下

夫婦と子どもふたりの日常備忘録

奨学金があると結婚できないらしい

産休に入って暇になったので、山田昌弘氏の新しい本を読んだ。

 内容をざっと要約すると、「欧米諸国に比べ、日本人はリスク回避と世間体重視の傾向が強いため、愛があってもお金の不安があれば結婚しない。だから未婚者が増え、少子化が進んだ」というもの。

冒頭、「奨学金を借りている人とは付き合うな」と母親に言われた、という学生のエピソードから始まっていて、「今時そんな考えの人いるかね? 少数派でしょ」と思いながらその時は読んでいたのだけれど、その後インターネットで次のようなトピックを見つけた。

 

komachi.yomiuri.co.jp

realestate.yahoo.co.jp

girlschannel.net

 

探すといっぱい出てくる。相手方の奨学金を理由に親に結婚を反対される人がいるんだなということにまず驚き、そしてネット上ではどっちかというとそういう人たちの方が多数派っぽいということにさらに驚いた。

ええー、なんで? なぜ奨学金があるというだけで結婚を渋るの?

考えたこともなかったからカルチャーショックでめまいがしそうだ。

反対派の人たちは、「奨学金=借金=不幸」というイメージだけで反対していないか?

 

奨学金というのは、確かに借金だけれど、それ以上のリターンを得るための借金なのだから、返還の計画がきちんと立てられていて、計画通りに返せているなら問題ないのでは? 年収400万で奨学金がないAさんと、年収450万で月に2万円奨学金を返還しているBさんがいたとすると、Bさんの方が使えるお金は多いわけだけれど、それでもBさんと婚約破棄してAさんと結婚するのかね…?

実質的な年収が約420万円の人だとみなせばいいだけじゃないかと思うのだが。

奨学金がある=苦労する」というのは、実際に生活がカツカツ、ということでなければ、単なる気分の問題だと思う。不安なら、現在の収入がいくらあって、支出がいくら、将来的にこうなる、というのを具体的に試算してみればいいのだ。考える前に拒否反応を示すのではなく。

 

あと、日本学生支援機構で借りる奨学金は、一般的な借金と違い、失業したり病気になった時は返還を猶予してもらえるし、死んだり重度の障害を負ったときは残りを免除してもらえる。結婚相手に一緒に返還する義務はない。奨学金を借りた本人が自分の給料から返していけばいいだけの話。

 

上記サイトでのコメントに、「夫の奨学金さえなければもっといい暮らしができたのにと思ってしまうから、結婚相手に奨学金はない方がいい」みたいなことを書いている人もいたけれど、いやいや、奨学金で減る分も含めて旦那さんの稼ぎでしょう。なにを当てにしているんだ? この人は旦那さんと同程度の経済状況の家庭で生まれ育って、それでいて奨学金に頼らず大学を出て、旦那さんと同程度稼いで、旦那さんより多く生活費を負担しているのだろうか。それだったらまだわかるけど、実家の経済力なんてそれぞれなのだから、そこに文句を言ったらだめだろう。

 

悶々としながら読んでいると、さらにモヤモヤする意見が。

なんと「子どもに借金させるような親は人間的に問題がある、そんな人たちと親戚になりたくない」という人が結構いるのだ。

ギャーっと飛び上がってひっくり返るかと思った。今までそんな考え方が世の中に存在することすら知らなかったから。

ここでコメントしている人たちはきっとすごく恵まれた環境で育ったのだろう。たぶん東京生まれ東京育ちで、親もそれなりに高学歴でそれなりに収入があり、生まれたときから子どもの将来を見据えて蓄えてくれるような親で、自宅から通える大学がたくさん選べて、私立大であってもその学費を親が全部払ってくれるような。

現実はそうできない家庭も多い。田舎だと、自宅から通える大学は限られる。実家を離れて一人暮らしをするとなると、国公立大でも4年間で学費+生活費は700万はするだろう。それを子どもの人数分準備できる家庭は限られているし、1人当たり700万用意できても、子どもが私立大へ行ったら? さらに理系学部だったら? まして大学院に進学したら? そこまで親の責任なのか? いや、違うよね…? てか、無理じゃない…?

 

そういう家に生まれたら「身の丈」にあった進路を選べということ? 高卒と大卒では生涯賃金が4000万ほど変わってくるのに? 低所得が再生産される負のループに自らはまっていけと?

あるいはそういう人は子どもを産むなということなのか? どうしよう、我が家は子ども1人当たり、高等教育にかかる費用として600~800万くらいしか見込んでいない! 海外の大学に進学したいとか言ってきたら自分で奨学金をとってこいって言うつもりだよ、端から!

 

 

なるほど、だから少子化が進んでいるのか、とここへきて上述の新書の内容が腑に落ちた。

日本では、親は子どもにしっかりした学歴をつけさせなければならないという価値観がある。だからそれが実現できそうにない結婚はしない。特に、結婚後は男性が家計に責任を持つべきという考え方が強いため、男性側に経済的に不安な要素(奨学金もこれに含まれるらしい)がある場合、女性側は結婚に躊躇してしまう。

そういう行動をとる人が実際にたくさんいるようだということが今回、ネットを眺めていてわかった。

なんだか世知辛くてかなしい。

 

 

何を隠そう、わたしも大木くんも奨学金で大学に行った一人なのだ。

わたしたちはお互い地方出身で、実家は貧乏ではないが裕福でもなかった。きょうだいもいる。

当たり前のように奨学金を借りて当たり前のように大学に進学し、当たり前のようにそれぞれの給料から返還している。(我が家は夫婦別財布で、生活費の負担は給料に応じて分担、貯金はそれぞれ手取り年収の30%以上とし、残りが自由に使っていいお金。奨学金はその残りの部分からの返還だ)

当たり前すぎて今まで問題にしたこともなかったが、そういう衝突がないことは幸せなことだったのだなと思った。

「子どもに奨学金を借りさせる親なんて無理」という意見があったが、たしかに金銭感覚が近いもの同士が一緒になった方がスムーズかもしれない。奨学金の有無だけで婚約が揺らぐようなら、これからもすり合わせるべきことがきっと山のようにある。

 

ちなみに、わたしも大木くんも、残りの返還額より貯金額が上回っている。

昨日大木くんに聞いてみたところ、大木くんは大学が用意している無利子の奨学金を利用していたそうで、「利子がないんなら一括返済するよりちょっとでも運用した方がお得だから当初の計画通り返す」とのこと。ちゃっかりしている。

わたしの場合、卒業後、父が退職金で一旦肩代わりしてくれたので、父親に対して毎月返済している。親子間の借金なのでやはり利子はつかない。感覚としては、進学費用を出してくれた親に対して月々仕送りをしているのと変わらないのではないかと思う。わたしは妹たちより学費が高くついたので、完済した後も毎月送金し続けると思う。

 

 

もし「奨学金=悪いもの」と思っている人でこのブログを読んでいる方がいたら伝えたい。奨学金は必ずしも悪いものではないよ。

たしかにわたしはろくな大学生活を送らなかったから偉そうなことは言えないのだけど、学歴の効力は特に転職活動の際、ひしひしと実感した。コミュ障なのにわたしがまともな職にありつけたのは、学歴のおかげの部分が大きいと思っている。経済的に無理をしてでも東京に出てきた甲斐はあった。なにより田舎にいたのでは知り合えない人と出会え、いろんな経験ができた。それは年収以上の財産になっている。

それに、この先、育児で困難なことがあっても、あらゆる育児支援サービスを駆使してわたしは働き続けるだろう。それはお金のためだけでなく、自己実現の意味合いもあるけれど。ともかく、借金の返済でパートナーに迷惑がかかることはない。

奨学金があるから結婚できないと思っている人は、もう一度よくライフプランを具体的に考えてみてほしいと思う。完済まで結婚を先延ばしにするより、早いところ一緒に暮らして生活費を浮かせた方がいいかもしれない。

 

 

 

それにしても、子育てのハードルがもっと下がればいいのにね。