君の木の下

夫婦と子どもふたりの日常備忘録

マンションか、戸建てか

わたしたち夫婦は、今年の冬から妊活をすることに決めた。

家族と言えば家。

子どもができたら家を買おうね、と言い合って、駅に置いてあるSUUMOの無料雑誌や中古住宅の折込チラシを眺めては、こんなマンションがいい、住むならこの町がいい、などと夢を語り合って、はや一年。唐突に分譲マンションのモデルルームを見に行くことを決めた。

 

 

大規模新築マンション

というわけでこのあいだの日曜日、朝から近所のマンションのギャラリーへ赴いた。

モデルルームデビューである。

周りの人はみんなガチでわたしたちだけゆるかったら浮いちゃうね、と心配しながらもいそいそと向かう。

 

てっきりすぐ物件を見るのだと思っていたが、小さいブースに通され、そこでくりぃむしちゅー上田みたいな男性の営業マンの方から1時間以上、周辺環境やそのマンションの魅力を説明され、さすがにそろそろ飽きたな…と思う頃にようやく車に乗り込み、そのマンションへと向かうことに。

 

数百戸の大規模マンション。

タワーマンションではなく、低層マンションが広い敷地に数棟並んでいる。早くに完成した棟はもう1年以上前に分譲が始まっているので、すでに多くの人々が暮らし始めている。

中に入ってみて、わたしたちは圧倒された。

無機質のグレーの、全部同じ形をしたベランダ。あれがすべて人の家なのだと思うと、なんだかそこは異空間というか異世界だった。

ミストサウナなど最新設備の整った部屋。敷地内に公園、カフェスペース、ライブラリ。

帰りに駐輪場の横を通ったら、おびただしい数のチャイルドシート付きの自転車。小さい子供のいる家庭が多いことがわかる。

 

ギャラリーの方へ戻り、再びブースに通され支払いの見積もりを作ってもらった。

住宅ローン控除なども合わせると、払えない額でもない、のか? この先も給料が上がるならね。

 

 

ギャラリーを出た瞬間、大木くんが「あんまり住むイメージ持てない」と言った。

さすが大木くん。わたしも同じこと思ってた。

「狭い」「リビング以外の部屋が暗い」「駅徒歩圏内とか言ってたけど、部屋出てからマンションの敷地出るまでにすでに数分かかるから実際駅はめっちゃ遠い」「数百世帯がいっぺんに高齢化するのは怖い」「設備は確かに新しくてきれいだけど、ぶっちゃけただの団地だよね。将来的に今の多摩ニュータウンみたいになるよね」「敷地内にいろいろそろってるっていうのは便利かもしれないけど、閉じ込められてるみたいな閉塞感を感じるよね」

 

二人の意見はだいたい一致した。

「大規模マンションには住みたくないんだなっていうことがわかったのは収穫だったね」

 

子どものころからマンション暮らしの人ならあまり違和感を感じないのかもしれないけれど、我々は二人とも田舎出身だ。ものすごい人口密度の場所で一生暮らす、と思うとちょっと恐怖も感じてしまう。隣の人と壁一枚隔てて、似たような間取り、似たような年収、きっと同世代で、同じような暮らしをするのだ。その隣の人も、その隣の人も、…と考えると、何が起こっているのかよくわからなかった。

今がいいところに住みすぎているというのもある。

駅近で、駅周辺はそれなりに賑わいがあって何でもそろうし、徒歩2分圏内にスーパー、コンビニ、病院などがあって便利で何不自由なく暮らせる。

角部屋だし、隣のマンションがうちより低いおかげで日当たり抜群。ベランダからは富士山も見える。これでしかもこの辺の相場より2,3万円は家賃が安いのだ。なんでか知らないけど。

 

ならここでよくない?

新しい部屋に住みたいという願望は二人ともないわけで。

 

 

 

中古戸建住宅

午後、気を取り直して別の不動産屋さんに電話をした。

チラシに出ている中古住宅、内見できますか?

今日でも大丈夫、というので早速歩いて伺った。

広い応接室に通される。

「やばい。さっきよりもさらにガチな部屋に通されちゃった」

 

少しして、タカアンドトシのタカをもう少し気弱にしたような男性が出てきた。

「実はこの物件、前回より300万円価格を落として出したところ、昨日から問い合わせが多くて、実は昨日もすでに契約された方がいらっしゃるんです。今はその方の審査が通るかを待っているところなんですが」

という。なんでも、有名ハウスメーカーの人気のブランドの家で、この価格で買えることは滅多にないのだという。以前から家を買うつもりでいろいろ勉強している方にはすぐ「買いだ」とわかるようないい物件なんですが、そうですか、今日初めて見るんですか、じゃあ今日の今日でいきなり契約はできないですよね、なんて言いながらもざっくりした見積もりを作成してくれ、さっそく内見に連れて行ってくれた。

 

土地自体は奥まったところにあり、駐車場から玄関まで細長いアプローチがのびる。植栽がきれいに手入れされていて、メルヘンチックでかわいらしい。庭ともいえない小さいスペースにベンチが置いてあって、ここに住んでいた住人がそれなりにここでの暮らしを楽しんでいたことがうかがえる。前の住人は、親と同居することになりこの家を手離すことになったという。

 

築約15年ということで外壁などはぼろくはなっているが(買ってすぐやり替える必要があるそうだ。それには100万くらいはかかるとのこと。前職でそういう案件も見てきたので、まあそんなもんかもね、とは思う)、中はおおむねきれいだった。

まずは2階のリビングに通される。畳敷きのスペースもあり、とても落ち着く空間になっている。リビングの窓は隣家に圧迫されるということもなく、天井も高く、陽が入り明るくて、穏やかに過ごせそうだ。

しかし、1階に降りてみてちょっと違うぞと思う。家と家の隙間が狭い。端的に言うと、1回は日中でも結構暗い。なんというか、寝るだけの場所という感じ。

 

周辺環境もいいし、申し分ない場所ではある。

今朝見た新築マンションに比べて1千万以上も安い。

でも、生きているうちに1回は建て替えが必要かしら、と考えると決して安くはない。中古で買うならもう500万円は押さえたい所。

 

 

そして結論は

その日の夜。

「なんか、いろいろ見れて今日は楽しかったけど、逃げ場がなくなる感じがしてちょっとしんどくなっちゃった」

正直に大木くんに言った。

一生ここに住まなくちゃならないのか、ローン払いきるまで絶対に仕事も辞められないのか、…などと考えるとしんどいことばっかり。

 

「まあね、でもそれなら、建て替え前提で中古の家を買うっていう考えは悪くないと思うよ。ローンは早く払いきれるだろうし、もし建て替え費用がたまらなくても、大事にメンテナンスしてれば、ボロボロになってもなんとか生きてるうちくらいは住めるだろうから」

「そうか。それなら家を建て替える楽しみも残るし、お金を払いきれないかも、っていう精神的負担も軽減されるね。でももうちょっと安いところにするべきだよね」

「そうだねえ」

「やっぱり西武線沿線か…」

中央線の便利さ、ブランド力は捨てるべきなのかもしれない。ぶっちゃけ西武線沿線に引っ越しても通勤時間は変わらないし。

「あっちのほうならもっと安いのがいくらでもあるよ。それこそ新築でも今日の家より安く買えるよ」

たしかに、検索すると、出るわ出るわ。片働きでも買えそうでかつ日当たりもよさそうな家が。

 

「でもあっちの方の町よく知らないしな…」

歩いて気軽に行ける場所におしゃれで落ち着くカフェがなさそう。夜大木くんとふらっと飲みに行ける店がなさそう。ショッピングのたびに電車乗り継いで出掛けなきゃならなさそう…。

のんびり暮らせるかもしれないが、ちょっと、しりごみしてしまう。

でもこの町ももともと全然知らなかったけれど住んでみて好きになったのだ。ならとりあえず住んでみればよいのでは?

 

「買うのはいったんやめて、とりあえず西武線沿線の賃貸物件に住み替えてみるっていうのはどう? あっちなら今より家賃抑えられるから貯金も殖やせるし、例えば子どもが小学校に上がるタイミングとかでそれこそ中古の家を買ってもいいし。そのタイミングから買えば中古でももう建て替えずに一生住み続けられるだろうし」

「なるほどね」

それはいいかも、と大木くんも納得して、二人して賃貸物件を検索し始める。

 

いいねいいね、駅徒歩10分以内、3LDK8万円台。

住める。今より安い。余裕だ。

 

で、はたと気づく。

これ、家買う必要なくない?

 

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その日の晩ごはん。

サバのピリ辛香味ソース、なす田楽、ピーマンとシラスのあえ物、ジャガイモの味噌汁。

サバがうまい。またやろう。なすは表面にごま油を塗ってから味噌を塗りオーブンで20分焼いたのだけど、とてもジューシーに出来上がった。またやろ。

 

 

 夢

この日は賃貸物件を内見しまくる夢を見たよ。そりゃそうだな。

 

子どもができたら即買えるように勉強を始めようと思って今回モデルルームデビューをしたが、当分買わないかもしれない。

購入しても賃貸でも、人生全体で住宅にかかる費用はほとんど変わらないなんて話もある。不安の種類が違うだけだ。

今いきなり大きな借金を背負うのと、思いのほか長生きしてしまって老後に家賃が払えなくなる可能性を持ち続けるのと。

 

われわれはもう少し決断を先延ばしにしようと思う。

 

 

とか言いつつ、人生をあれこれ考えるのは楽しいのでたぶん次は住宅展示場に行くけど。