君の木の下

夫婦と子どもふたりの日常備忘録

東京大学入学式の祝辞を読んで

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話題になっているし、わたしも思うところがあったので備忘録程度に書き残しておこうと思う。20年後くらいに読み返して当時はこんな時代だったなあと振り返って楽しむためだ。

…楽しめる未来が来るといいけど。

 

先に断っておくと、わたしは大学時代なんとなく受講してしまったジェンダー論の講義が気持ち悪すぎて2回出席しただけで脱落し(もちろん単位は落とした)、それ以来フェミニズムには若干の苦手意識がある。なんだろう、どう議論しても「男対女」「専業主婦対バリキャリ」「リア充女子対モテない女」の対立がどこまで行っても平行線のままで、どちらも全く歩み寄りそうにない感じが気持ち悪かったのだと思う。上野さんの本も読んだことがない。それと、東大出身でもない。そのため、純粋に今回の祝辞に対しての感想、自分の体験談になる。

 

さて、祝辞の中で特にいろいろ感じたのはやはり後半の部分。

がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。

 

それは学校を出た瞬間に感じたことだった。

花形部署には男性ばかり、一人女性が混じっているなと思ったら雑務を担当しているだけだったりした。仕事で会合に呼ばれていった女性たちは「おじさんたちにコンパニオンみたいに扱われ、しかも向こうはそれが当たり前だと思っている」と憤っていたし、課長以上の管理職のうち、女性はたった3~4%しかおらず、いても人材育成担当とか、限られた部署にしか昇進のルートがなかった。当然、自分がまかされる仕事も雑務的なものがほとんどで、何を頑張れはばいいかわからない。このまま何年ここにいたって何にもならない、とほとんど絶望的な気持ちでいた。

のちに出会った大木くんにそのことを愚痴ったことがあるが、彼は自身の会社でさほど男女差別は感じていなかったらしく、だからわたしの感覚もわかってくれないし、「そう思うなら自分がパイオニアになればいいじゃん」などとも言われたけれど、そんな簡単に言わないでほしい。数少ない女性課長たち(ちなみに部長職には女性は一人もいなかった)を見ると、そこら辺の男性上司のはるか上をいくほどのとんでもないエネルギーの持ち主で、簡単にはまねできそうにない、そもそも簡単な雑務しかさせてもらえない環境で何をどうアピールしたらよいのかもわからなかった。

 

そのころ付き合っている人がいて(大木くんではない)、脱いだものは脱ぎっぱなし、食べた後のお皿を下げもしないという人で、結婚なんて全く考えもしなかったが、もし将来ほかに結婚したい相手が現れたとしても、こんな感じなのかしら、わたしが家事を全部やって、ということは育児も全部わたしの役目になるんだろうし、ますます仕事なんてまともにできない。同じ屋根の下で暮らすのに、不平等に苦しむなんて。なら、絶対結婚なんかするものか。…けど、仕事もつまらない。どうしたらいいんだ。

わたしは、中学時代はずっと学年で一番の成績だった。男の方が女より優れてるなんて嘘だよね。だってみんな、わたしより頭悪かったよね?就職活動につまづいて留年を繰り返したせいでまともな職に就けなかったのはある程度自業自得だけれど、女というだけでここまでないがしろにされるなんて。

わたしは何のために頑張ってきたんだろう、このままここで何も得られず老いていくだけなのか?人生ってなんてつまらないんだろう。

そう思っていた。

結構やばいところまで追いつめられていたと思う。

 

その後、運よく大木くんと知り合って中距離恋愛という形で付き合うことになり、1年たったころ、わたしは大木くんのいる東京へ引っ越すため、転職することにした。

 

転職先は、都内の同業他社に比べれば管理職の女性比率は少し低い方ではあったが、元居た場所からすれば雲泥の差で、今はさらにそれを是正すべく女性を積極採用していて同世代は女性の方が多いし、身近にロールモデルになりそうな女性上司もいる。わたしのいる部署の扱うサービスが比較的女性向けということもあり周囲は女性の方が多く、「女だから雑用を」、ということはほとんど感じない。それなりの仕事を、ちゃんと与えられている。

もっとも、男性がやる必然性のない部署なのに男ばかりという部署も中にはあるので、今たまたま運よく良い環境にいられているだけかもしれないが、少なくとも今は、転職してよかったと本当に思う。頑張っても何にもならないんじゃないかって場所には、ずっとはいられないもの。頭がおかしくなるから。

 

結婚の方はというと、これも、本当にいい人に出会えたなと思う。

大木くんは料理は苦手だけれど、それ以外の家事はほとんどやってくれているし、料理も練習してめきめき上達している。「育休を取る、時代の最先端な男」になりたいらしく、子どもが生まれたら長期で育休を取るらしい。なんなら「キノちゃんがバリバリ働くなら、俺、残業しない申請して保育園の送り迎えしてもいいよ」とすら言っていた。

男女の不平等の問題にも大木くんなりに関心があるようで、新聞でそういう記事が出ていると割と熱心に読んでいたりする。女子率が半数を超える学部の出身の大木くんは、彼は彼で、男性の役割を押し付けられることに違和感を感じているのかもしれない。

出身大学の偏差値が10以上高いわたしのことを敬遠しなかったし、それでいて俺より頭いいと思う、とも言ってくれる。(でもわたしは大木君の方が合理的で判断力もあって、家計の収支をきっちりつけていたりするように管理能力も高いと思う)

前の職場にいたころ、勝手に妄想して絶望していたような結婚生活にはまったくならなかった。

 

で、ここで初めの祝辞に戻るのだけれど、社会には本当に理不尽がこれでもかってくらい待っていると思う。それでも、そんな環境を自分から切り捨てるという選択肢もあるということを未来ある学生たちには知っておいてほしい。

確かに、業界全体で体育会系気質で女がいづらい業界もたくさんあるだろうけれど、その中でもちょっとでもましな会社を選ぶことはできる。あと、東京と田舎とじゃ、やはりそのあたりの感覚が結構違う。転職前は埼玉の少し田舎に住んでいたという女性の先輩も言っていたけれど、東京の通勤圏から少し外れると、「町内会の行事の裏方は全部女。男は酒飲んでいるだけ」みたいな地域は平成が終わろうとしている現代でも、いくらでも残っている。そんな田舎、滅びればいいとわたしは思っている。みんな、そんな場所は置き去りにして、少しでも居心地のいい場所を探したらいい。なんなら日本から出て行ってもいい。

結婚相手だって、女を虐げるような相手や女の子は自分より馬鹿な方がいいなんてやつはこっちから願い下げだ。ちゃんと、自分を対等な存在として尊重してくれる相手を探せばいい。

わたしが学生だった10年ほど前とくらべても、日本の空気間は随分変わった。選ばれなかったものは淘汰されるか、形を変えざるを得ないからだ。

 

わたしには、上野先生みたいに声高に権利を叫ぶエネルギーはない。でも、嫌なものを置き去りにしてマシな方を選ぶ程度の行動はできた。(まあ大方大木くんのおかげなのだけども)

そういう行動が日本中で今後も積み重なっていけば、少しずつでも社会はよくなっていくのかなと思っている。

だから、これから大人になっていく女性たちにもせめてそうであってほしいと思う。嫌だ、理不尽だと思うことを、我慢し続けることはない。東大生ならそれくらいの選択肢は持ってるはずだ。企業できる人だってたくさんいるだろう。そしてもしそういう理不尽にあって場所を変えるとき、なんの選択肢も持たない、もっと弱い立場の人がいることにも、少し気を配ってくれたら良いと思う。

もちろん、男尊女卑のきつい場所に入り込んで、しなやかに環境を変えていけるなら、それに越したことはないけどね。東大に行けるくらいの女の子たちなら、そういうこともできるのかもしれない。


本当はもっといろいろ考えたりしたのだけど、長くなってきたのでこの辺で。

 

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今日の晩ごはん。

スープカレー。大木くんの実家(北海道)からお母さんがスープカレーのペーストを送ってくれたので。