君の木の下

夫婦と子どもふたりの日常備忘録

慣れない幸せ

先日のお出掛けの時の会話の話を記録しておく。
結婚式の打ち合わせに行って、上野で買い物をして、日比谷で『犬ヶ島』を見て、その帰りに有楽町のオフィス街でもつ鍋を食べているときの話。

広々したカウンター席で、時々静かに話しながら、黙々とごはんを食べていた。隣の空席を挟んで向こうに、カップルが座っていた。話したいことがたくさんあるのか、早口にひっきりなしに話して盛り上がっている。
わたしも大木くんとあんな風に楽しくおしゃべりしたいなあ、と思ったけど、我々は二人とものんびりした話し方しかできないし、そもそも、話さなくてももう充分幸せなのだと気づいた。
仕方がないので、

「大木くん、わたしと暮らしてくれてありがとねえ」

とだけ伝える。

「え、なに」

ちょっと笑う大木くん。

「いや、毎日幸せだと思って。こんなに幸せなのは二人暮らしを始めたばかりだからなのかねえ。そのうち慣れるものなのかな」
「そうじゃない?」
「慣れるのかー。わたし幸せすぎてわりと毎日びっくりするんだけど。当たり前になっていくのかねえ」

段々ありがたみもなくなってくるものなのかな。

ずっと一人で生きていくと思っていた。思いがけない人生の転換。本来の自分の人生とは違う人生を歩み始めている。
だから今は、大木くんとの出会いは本当に運が良かったと思うし、いつでもひとりぼっちに戻る可能性があるのだと、肝に命じながら生活している。

当たり前になりたくないなと思う。

大木くんに出会う前までは、本当にわかり合えると思える人はどこにもいなかった。
そういうものだと思っていた。当然、結婚願望もなにもなかった。

あの頃の気持ちは、今でも鮮明だ。
そしてこれからも忘れないようにしたいと思う。


今後子どもができたり、二人とも忙しい部署に配属されたりすれば、幸せに思う余裕もなくなって、喧嘩が増えるかもしれない。
でもそれは相手を嫌いになったんじゃなくて、自分に余裕がないからなのだと、ちゃんと認識するようにしようねとわたしたちは話し合った。